不揃いのページが愛おしい 100年前の製本「アンカット」
袋とじのままのページを一冊に束ねた「アンカット本」を、紀美野町の絵本収集家の本棚で見つけました。ナイフで切り開かないと読むことができないので、そのページに初めて触れたのは自分以外の誰でもない、という確かな感覚が楽しめます。
明治期に日本に伝わったこの「アンカット」という技術は、実用性には乏しく、本の完成まで手間ひまもかかりますが、これが本の本来あるべき姿であるという人も。不揃いのページが、書物の長い歴史やロマンを今に語りかけているようです。
写真の本は、ほるぷ出版が1976年に名著複刻 日本児童文学館として刊行した『金の輪』。「日本のアンデルセン」として親しまれている童話作家、小川未明(1882~1961)のロマンティックな世界を、赤い表紙と緑色の文字の装丁が演出しています。
未明は同書の冒頭で「私達が何等かの幻想や連想によって既に少年の時代に失われた世界をもう一度取り返すことが出来たら、どんなに仕合わせでありませう。而して、もしそれによって、更に少年を楽しませることが出来たら、どんなに私達は芸術の誇りを感ずるでありませう」と記しています。
効率化を目指す現代と逆行するかのような「アンカット本」。装丁で作品を盛り立ててくれる贅沢な製法ですが、現代でもそれを行なっている出版社があり、その一つが茨城県つくば市のひとり出版社「夕書房」。年に2冊のペースで芸術、人文学関係の書籍を刊行しています。
今カットしたばかりのページをそっと繰りながら、初めて文字を覚えた頃を思い起こしたり、幼い頃に好きだった場所の情景に耽ったりして、ひと時の時間旅行を楽しんでみては…。