「新しいものを生み出すアート的な視点を持って、生活して欲しい」 ギャラリーハチ
木立に囲まれ、光と風を受けてたたずむギャラリーハチが紀美野町小畑(しょうばた)に誕生したのは、2001年。ゆるやかな曲線で宙に浮いたようなエントランスが、現代陶芸作家、井澤正憲さんと妻の幸子さんの作品が並ぶ明るい空間へと誘う。ここには、人が作品とコミュニケーションを図る際、その二者に「場所」も加えて欲しいという狙いがあるのだ。
工房はギャラリーの隣。そこで生み出されるのは、豊かな自然から着想を得たり、空想の世界を具現化したりした器やオブジェなど。時に愛らしく、時に奇抜な印象を与える茶器や皿は「どうやって使うの?」としばしば聞かれることから、カフェを併設した。お客一人ひとりに、心を込めて器を選ぶ幸子さんは「新しいものを生み出すアート的な視点を持って、生活して欲しい」と語る。
カフェ内で芸術関係の書籍が並ぶ棚には、フランス人建築家、カミュ・ベルジェさんのアドバイスが反映されている。カミュさんは、2010年秋、ここにふらりと立ち寄った異邦人。高野山を訪れた際、セレクトショップで井澤さんの作品を手に取り、「こんな作品は見たことない。制作者に会いたい!」と尋ねてきたのだ。帰国予定を変更し3週間にわたり陶芸を学んだカミュさん。別れが近づいたある日、クロックムッシューなどの手料理を井澤さん家族に振る舞い、借りていた部屋を美しく掃き清め、思い出を記録したアルバムを贈った。そこには、「まずは100個作りなさい」とのスパルタ的指導への驚愕や、カミュと正憲(まさのり)を合わせた「カミノリ」という愛称を名付けられ、正憲さんを思わず抱きしめ抱え上げてしまうほど喜んだことなどが、記されている。
カミュさんが「カミノリ」に感激を覚えたように、価値があるのは、形の有無を問わずオリジナルであること。井澤さん夫妻は「価値観が画一化されがちな風潮に息苦しさを感じる時、それを払拭させるような新しい生き方や視点を、現代陶芸が提案できたら」と話す。
和歌山県海草郡紀美野町小畑73-1
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